キリリクドリーム小説・189000番・さーこ様へ
『脆弱な鏡』



――貴女を好きな気持ちに嘘はなくて。
僕の胸中に小さく咲いた愛の芽。
ぽかぽかとした貴女の暖かな笑顔に照らされている。
それは幸せなこと。
大切に…そう大切に育てて生きたいと思う。



「ミト!!」
ハッとしてミトは顔を上げた。
薄い水色の髪を大きく揺らして、自分の名を呼んだ少女に慌てて振り返る。
少女の瞳は強い意志を持っているようで、力強い印象があった。
少しだけ目尻が垂れ下がっていて、そのおかげで愛嬌が出ている。
…とミトは思うのだが、彼女自身はそれがコンプレックスらしい。
、どうしたんですか?」
強い光の視線に耐え切れなくて、ミトは目を逸らした。
「出かけるよ!…ほら!!」
は明るい声でそう言うと、問答無用でミトの腕を引っ張る。
彼女よりも遙かに身長が高いはずのミトだったが、情けないことに強引なに抵抗は出来なかった。

太陽の光は強く、森の中は神秘的な空気を漂わせている。
木々が光を遮り、優しい木漏れ日を作り上げ、ミトに降り注いでいた。
「ほら!見て、ミト!!この池!」
ぼうっと景色に魅入っていたミトを現実に引き戻して、は森の中に佇む小さな池を指差す。
ミトは仕方がなく、彼女の隣に立ってその池を眺めた。
「…あ」
その瞬間ミトは硬直する。
池に映ったのは自分。
を愛することで――変わったはずの自分。
だけども、そこに映ったのは違っていた。
あの――弱いままの自分。
小さい肩を震わせて怯えたような目つきでこちらの様子を窺っている。
「すごく綺麗な水でしょう?…七色に光るなんて…」
横で呟いたの声が耳に届いた。
――彼女には七色に光って見えているのか?
ミトは言葉を発することができないまま、また彼女のほうへ顔を向けることも出来ないまま硬直していた。
動じず、抜け殻になったように…。

水面に揺れていた自分が一滴涙を零し、自嘲する。
『ほら、やっぱり…。君はいつまでたっても弱いまま』
――弱いままの自分?
『たとえ体が大きくなったとしても、心は脆弱』
――違う。僕は変わった…変わったはず、なんだ…
『はっきりしないのも変わらない。…ねぇ、君は何も変わっちゃいない』
――何も…カワッチャイナイ?

隣に立つ愛する女性の目もまともに見れないままだった自分。
ミトは苦しくなって膝を付いた。
彼の行動に驚いたようには息を吸う。
「…ミト?」
七色に光る水面。
強い心の持ち主には幻想的な水。
しかし、弱い者には…その物が恐れるものを映し出す。
「…僕は」
「ミト!!」
「…あ」
ミトは目を見開いたまま、水面を眺めた。
透明な鏡に映っているのは今にも泣き出しそうな図体のでかい自分の姿と、心配そうにしているの姿。
ぎゅっと強く抱きしめられた肩。
耳元で聞こえるのは温かい彼女の息遣い。
「……?」
「…うん」
の少し冷えている手にそっと触れて、ミトは顔を彼女へと向けた。
真っ直ぐに強い視線とぶつかる。

――今度は逃げない。

「…寒い?」
ふわっと微笑んだ。
その笑顔にの頬が赤くなる。
「…うん、そうかも」
「そっか…。じゃあ、もう帰ろうか?」
肩を抱いてくれたから離れて、ミトは立ち上がった。
そうして今度は逆に彼女の小さな肩を抱きしめる。


――いつでも気づいていた。
ずっと知っていた。
思い知らされていたんだ。
僕を強くするのは彼女で。
僕が強くなることが出来たのは、いつだってが側に居たから。
臆病な僕の背中を押してくれるのは…いつだって君だけなんだよ。

…そう僕は変わったんだ。

どんなに過去の自分が惨めで哀れな弱い存在だったとしても。
彼女と出会い共に過ごした僕は一歩ずつ未来を歩んでいる。

うん。――強くなっているから。


こちらは189000番を踏まれたさーこ様のリクエストでした!!
ありがとうございましたv
お題はキャロットで。
お出かけ・水辺・過去と未来、でしたね。
うまく出来ているかはわかりませんが…。

ミトくん、頑張れって感じでしょうか(笑)