キリリクドリーム小説・190000番・楓子様へ
『ホワイトクリスマス』



「ライくん。…ほら」
雪の結晶をその掌に包み込みながら、は優しく俺に微笑んだ。
空気は震え、呼吸をする度に白く濁った塊が空気中を漂う。
そして消えていく。
俺の言葉も…
お前の返事も…
それらも一緒で何事もなかったかのように消えていくんだろう。



――アオイの誕生日祝いを含んだクリスマスの前夜祭はいつも通り騒々しかった。

誰もが皆忙しそうに城を行きかい、休憩することも忘れたように足を止めない。
口から漏れる台詞はいつも同じ。
『あぁ、忙しい』
俺から思えば忙しくしているのはそれを吐くやつら。
…そう思う。

「あぁ、ライくん!いた!!」

暇そうにしていた俺の元に、いつもの愛しい足取りでやってきたのはだった。
いや、俺の元にわざわざやってくるやつなんて早々居ないけど。
が俺を探していたらしい台詞に酷く感動していた。

「おっす」
「ふふ、ライくんはいつも通りだね」

は少しだけ辺りを見回しながら、俺に近づいてくる。
その動きがなんだかもどかしくて――少しだけイライラした。
だから、俺は側に近づいてきたを抱き寄せる。
か細い腕を掴んで、強引に引き寄せた。
…元々そこにあるのが自然なぐらい、の身体は俺の腕の中に綺麗に収まる。
琥珀色の髪を撫でると、柔らかくて甘い匂いが鼻腔を擽った。

「…ライくん」

小さな息遣いで俺の名を呼んだが愛しくて、余計に腕に力を込めてしまう。
「ふふ、温かい…。…寒かったの?」
「…馬鹿。寒いからってわけじゃねぇし」
――お前ならいつだってこうしたいと思ってる。

「はい、プレゼント」
「あ?」
ふっと俺の力が緩んだ隙には少しだけ体から離れてしまった。
ただ、俺の首元に柔らかい毛糸のマフラーを巻いて…。
「クリスマスプレゼント!…穴だらけなのは許してね?」
首を傾げて大きな瞳で俺を見つめる。
少しだけ斜めの角度で、いつも通りの上目遣い。
「編み物なんて初めてやったんだもの」
「…サンキュ」
俺は思わずマフラーに顔を埋めた。
それは自分のにやけ顔をに見せないため。
あまりにも嬉しくて、緩みまくった顔は情けなさ過ぎるから…。

――俺は本当にお前が…好きなんだなって、思い知らされる。

毛糸の色は鮮やかな朱色。
が笑顔で俺の表情を見ようと覗き込んでいるのが、その縫い目の隙間から見えた。
「ライくんって赤!って感じだから」
「…あー…、好んで着てるってわけでもねぇけど…たまたま」
「ふふ、正義の味方みたいでいいよね」
「…はぁ?」
「ほら!ヒーローて感じかなぁ?」
「随分、汚れたヒーローだな。それだったら」
過去の自分を重ねたら、純真な物語なんてできっこない。
少しだけ捻くれた答えには小さく頬を膨らませていた。
「あ…」
しかし、次の瞬間にはその表情は明るく輝いていた。
中庭に咲いたのは真っ白な純白の雪の華。
空から降り注ぐ満天の結晶の芽。

「ライくん。…ほら」
雪の結晶をその掌に包み込みながら、は優しく俺に微笑んだ。
空気は震え、呼吸をする度に白く濁った塊が空気中を漂う。
「あぁ…雪、だな」
くるりと嬉しそうに回ったを眺めながら、俺は呟いた。
空を仰いで見るより、踊っているようなを眺めるほうが楽しい。

「…

吐き出した息と一緒に言葉も静寂の空へと掻き消えていく。

「…お前だけのヒーローになら、なりたいと…思う」

伸ばした手は…そっと空気を掴んでから、微かに彼女の髪に触れた気がした。


こちらは190000番を踏まれた楓子様のリクエストでした!!
ありがとうございましたv
お題はレイカちゃんですね。冬・クリスマス・雪。
お相手はライくん!!(笑)
あはは、少し興奮しながら描かせていただきました(涎)←おい

楽しんで読んで頂ければ幸いですー!!