230000番・みき様へ
『氷下美人』



私が彼に出会ったのは…そう、もう2年半も前のことだった。

初めて彼を見たとき、心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥った。
噂では聞いていたけれど、とても綺麗な顔立ちをしている。

彫られた石の仮面をつけたような…そんな無表情な少年だ。
何人もの大人が挨拶をしても、対して反応を示さなかった。
同じ授賞式の場にいる者としては、それが嫌味にしか思えない。

なぜなら彼のほうが作品の評価は高かったし、私の自信作は佳作。

「…おめでとうございます」
偶然に彼の前に立つことになってしまったので、言葉を紡いだ。
人と会話すること自体が苦手な私にとっては精一杯の声だった。
「…はぁ」
少年は抑揚のない声を返す。
「…嬉しくないんですか?」
思わず続けてしまった。
「さぁ…、人の評価なんて…僕にはどうだっていいですから」

そしてカチンときてしまう。

握り締めた拳が震えて、苛立ちが全身を駆け巡った。
「…じゃ、じゃあ、私が評価されるべきだったんだわ」
思わず本音が言葉に出てしまう。

だってそうでしょう?
彼は自分が手にした評価をあまり嬉しく感じていない。
だったら何故このコンクールに出てきたの?
私は全てを懸けていた。
芸術家として、きちんとしたプライドを持って…。

そして誰にも自分の作品を認めて欲しいと願っていた。

なのに、私よりも評価を与えられたくせに『どうでもいい』なんて!
あんまりだわ!!

「…貴女は」
ふと涙を堪えていると、少年は黙っているだけをやめて唇を動かす。
「創造者には向いていないんじゃないでしょうか」

「…?!」

声が掠れて何を口にしたのかわからなかった。
彼はあの淡々とした喋り方で続ける。
「僕は生み出すことが楽しいだけ。
…そう、他人がどう想おうとどうでもいいんです。
僕は自由な発想の元で、自分の世界を生み出す。
…偶々、それが人の目に留まった。それだけでしょう。
だから他人の評価など、どうでもいい。
…僕の世界は、僕が愛してさえあげれば…いいんです」

――自分勝手な言葉だった。

自己中心的で、彼の世界は彼を中心に回っている。
他人を拒絶し、他人を受け入れない考えが溢れている。

だけど…酷く魅惑的だった。

そう感じたのは何故か判らない。

「…それではさようなら。…小さなお嬢さん」

呆気にとられている私の表情が面白かったのか、彼はくすりと小さく笑って背を向けた。
その笑みは美しく、鼓動が高く脈打つ。
顔は真っ赤になって…暫く熱は冷めそうにならなかった。



後日、例の芸術家…ユキト氏が私よりも3つも年下であったことを知り、私がさらに衝撃を受けたことはいうまでもなく。

…というか、あいつ!!
完全に私を年下だと想っていたわね…っ!

…などと、怒りに燃えたのは些細な日常の午後だった。



「いつかは…あの自分勝手な男の世界を壊してやろう。
無断で入り込んで、邪険にされたとしても。
私が魅了されたように、いつかあいつを見返してやるのだ」


230000番リクエストです。

みき様ありがとうございました&遅くなってすみません。
なんていうか、描きやすかったです。
名前入力はありませんが、名前を出さなくても終わることが出来たので(笑)
一応、新設定ヒロインのキーワードは『身長低い・ユキトと同じく芸術家・大人しい性格』でした。
…おとなしい性格(息を飲む)
そうですね。大人しい子の方が実は心理では激しいものを持っているんだぞ。ってな感じで(ぉ)
リクエストありがとうございました〜☆