240000番・由美様へ
『生野菜が好きな理由』



――ねえさんは気づいていない。
…うん、全然気づいていないんだ。
俺がどんなに言葉で伝えたって、その深い意味を汲み取ってくれない。
…ううん、俺はそんな鈍感なねぇさんが好きなんだけど。
だけど、ほら。
少しは…もっと、俺の気持ちを理解してくれてもいいのになって…そう想ってしまうのは我儘なのかな?
…ダメ、なのかな?






「…暇っ!!」
真夏の暑い日、のねぇさんは急にそう言い出した。
いや、ねぇさんがこう言い出すのは日常茶飯事なんだけどね。
「暇ならどこかに行こうよ!」
俺はウキウキな感じでねぇさんの側による。
貴重な構ってもらえるかもしれない瞬間だ。
しっぽ振って飛びつかないわけがない!
「…っていうか暑苦しい」

―ビシャ…

顔に濡れタオルを投げつけられた。
「ひ、酷いんだけど!!」
「いい?折角の休日になんで暑苦しい中、炎天下の外に出なくちゃいけないわけ?!」
「…だって暇って…」
小さくなって見上げると、ねぇさんはふぅっと溜息を吐く。
…うわー、物凄い不機嫌。
「暇だけど、こう…何か涼しげな話題のフリとかはないの?」
「…海とか?」
「日に焼ける。却下」
…即答。
ねぇさんは実は肌が焼けるのを嫌っているらしい。
昔は畑でも楽しそうにはしゃいで野菜を育てていたのにな…。
いつから嫌になったんだろう。

少しだけしょんぼりすると、ねぇさんはそんな様子の俺に気づいたようだった。
「…しょうがないなぁ」
頭をかいて、椅子から腰をあげる。
「森林浴なら許してあげる。…木が日差しを柔らかくしてくれるしね」
「あ、ありがとう!!!」
俺が満面の笑みを浮かべると、その瞬間にねぇさんがそっぽを向いた。
…うわ、俺…うざいって想われたのかな?!
あぁ、すぐ顔に出ちゃうからな…。
ねぇさんに嫌われたくないのに…。

「それで。ピクニックならお弁当必要よね?…クレリューフは…」
「生野菜!!」

そう答えた瞬間、あって思ったんだけど。
まぁもう手遅れなわけで。
ねぇさんは深い溜息を吐きながら『判った判ってた』と繰り返した。
少しだけオロオロしている俺に背中を向けて、小刻みにねぇさんの肩が震えていたんだけど、それは怒りを堪えているってことなのかな。
あぁ…、気をつけようって想った矢先に…俺、何してるんだろう。
「はぁぁ…」
自分でも馬鹿だと想いつつ、長い溜息だけが口の端から漏れるのだった。


「それにしても、野菜好きよねぇ」
森について、小さな泉の横でシートを広げてお弁当を取り出しながらねぇさんはそう言った。
「え、あ…うん。好き、だよ」
ちょっとだけ気まずくて、俺はもごもごと口ごもる。
これ以上なんか変な回答して印象を悪くするのだけは避けたい。
「…どうして?」
沈黙が少しだけ走って、ねぇさんが破った。
「え?」
「だから、どうしてそんなに生野菜が好きなの?」
『緑の精霊だからっていうのはナシよ?』と付け加えられて、俺は返答に困る。

実は仲間の中で特に生野菜が好きだった。
それにはちゃんとした理由があって、主にねぇさんが関わっていることなんだけど…。

「…実は一目ぼれだったんだ」
「はぁ?!野菜に?!」
素っ頓狂な声を上げて、ねぇさんが吹き出す。
――本当はねぇさんに、ね。念のため。
「えっと、その陽の下で輝く笑顔が眩しくてさ。
それで…その、好きになってた…。
一生懸命に…おいしくしようとしているのが判って」
ねぇさんは今度は黙っていた。
「日差しなんか気にしないで、太陽の下で汗を流しながら輝くんだ。
誰もが…その子を好きになって、愛してしまうだろうと想った。
それぐらいに魅力的で…だから」

「もう…いい」
ねぇさんは立ち上がって俺から目線を外していた。
「…?」
木漏れ日が逆光になって、ねぇさんの表情が窺えない。
だけど、なんだか少し紅くなっているような気がする。
「あんたがどれほどまでに好きか、十分に伝わったわ…」
『本当に恥ずかしいんだから…』ぼそりと呟いた言葉が上手く聞き取れない。
だけど、じんわり心の中が温かかった。

「…うん、俺。すごく好きだよ」

――のことが世界で一番。


君が大切に育てた野菜だから、俺は大好物なんだ。
大好きな君が育てた…モノだから。


240000番リクエストです。
由美様ありがとうございました!
楽しんでいただければ幸いです(><)
えぇっと…、そうですね(笑)
キーワードは『森・野菜・ピクニック』でしたね。
一体どこまで萌えられるかが判りませんが、クレちゃんに萌えていただければ(嘘)
ウフフ、でも描いていて楽しかったですよー!二人が幸せそうだなと(笑)
またリクエストがありましたら、どうぞー。キリ番踏んで宜しくお願いいたします☆(ぇ)