300000番・鳥居鈴様へ
『温かい手』



――冬になると思い出す。
掴めなかった…彼女の手を。
救うことの出来なかった…愛していた女性を。


…遠い過去なのだろうか。
それとも…俺にとっては遠くない過去なのか。


判らないが冬になると思い出すのだ。

彼女の笑顔。
彼女の言葉。
彼女の…


あぁ。
どうして…

今。

想い出してしまったのだろう…。




「フォードさん!」
背中にかけられた声に慌ててフォードは振り返った。
不意を衝かれてしまった為か、声をかけてきた人物に対して激しい動揺を見せてしまう。
「…フォード…さん?」
元々勘のいい娘だったのだから、気づくのは当たり前だった。
人間の繊細な感情に対して、彼女は機敏なのである。
不思議そうに見上げる少女――にフォードは少しばかり溜息を吐いた。
彼女に悟られてはいけなかったのだ。
「…やっぱりこの森に来るのはやめたほうが良かったんじゃ」
「いや…」
否定的な台詞を吐いてみるものの、それ以降が紡げない。
フォードは自分自身を責めるように首を左右に振った。
「…すまない。俺は…どうも上手くいかないな」
「大丈夫です」
のはっきりとした言葉にフォードは言葉を失う。
「さっき、フォードさんが急に思いつめたような表情になってふらふら森の奥へ行っちゃったから不安でしたけど…でも」
とフォードの視線が曖昧な位置で絡み合った。
「でも、私の声にちゃんと気づいてくれたじゃないですか」
…」
真っ直ぐな瞳を暫く見つめていると、フォードの手は急に懐かしい温かさに包まれた。
紛れもなくの手だった。
「…だから大丈夫なんです」
森の中が一気に静寂に覆われる。
二人以外何も存在していないかのように…。
木々でさえも呼吸を止めてしまったかのようだった。
「…フォードさんは私を救ってくださいました。
勿論、他の皆にも私は迷惑をかけて…いっぱい助けてもらいました。
…だから、今度は私がフォードさんを助けます」
…お前は」
「だってフォードさんが好きなんですよ」

しんしんと雪が降る。
寒さは増していくばかりだ。

…なのにフォードの心は温かかった。
掌に伝わる体温のおかげだけではないだろう。
言葉では言い表せない温もりが、今二人を包んでいる。

…ありがとう」
「…フォードさん」
二人は顔を見合わせるとくすりと笑って、お互いに手を握り返した。
その後にすぐまた笑いあってしまう。
くすぐったいような感触。
恥ずかしいけれど懐かしいような…そんな気持ち。

、俺はお前が好きだよ。…愛している」
「はい」
「ずっと一緒にいてくれ。…お前がいない生など…もう」




――考えられない。

もし神という存在がいるならば、この大切な命を奪わないでくれ。
一度俺は神に見捨てられ、奪われた。
だから神という存在は信じない。

…信じないが、もし俺の元からを奪ったのならば…俺は呪おう。
今度こそ神を呪い殺そう。

背中を向け、信じないと逃げることはしない。

この手の温もりを。
この心の温もりを。

俺は忘れることはできないだろうから。

一度握ることの出来なかった手。



愛している女性をもう二度と…





「お城に帰ったら、雪だるま作らなきゃですね!」
の明るい笑顔にふっと微笑むながら、フォードは天を仰いだ。
「そうだな。この雪はかなり積もりそうだ」
「…はい!!」





――今度冬が来たら…思い出すのはこのの笑顔だろう。


300000番を踏んでいただいた鳥居様へ捧げます!!
大変遅くなってしまってすみませんでしたー!!
うぎゃんっ(鼻水)

ですが、今回この作品を書かせていただいてスランプ脱出になりました(笑)
これで物語がばんばん紡げそうです(何)
感謝ですv
お題は『冬・森・手』お相手はフォードさん。ゲーム上ヒロインということでv
気に入っていただけたら嬉しいですv
またイラストもUPしておりますので、拝見してやってくださいね!(感謝)