320000番・ちづる様へ
『憂鬱に散る桜』
はボーっと空を眺めていた。
隣で同じ様にアシュラも空を眺めている。
ただただ、二人はそうして同じ空間で同じ時を過ごしていた。
サァサァと降る小雨の中、灰色の空はどこか寂しげで。
緩やかな風も頬を掠めるだけで特に気にはならない。
寒くもないし、暑くもない。
この季節は一番過ごし易い。
ふいにその心地良い沈黙を破られた。
どちらかとでもなく、二人はほぼ同時に口を開く。
「なぁ」
「あの…」
お互い空を見上げたまま、二人は後に続く言葉を待った。
だから二人はまた黙り込んでしまっている。
「…なんだよ」
元々短気であるアシュラは、我慢できなくて聞き返した。
は少しだけ困ったように眉毛を曲げたが、すぐに答えなければアシュラの機嫌が悪くなるだろうと思って続ける。
「桜…散っちゃいそう」
離れにある専用の庭。
そこには大きな桜の木が一本あった。
縁側に並んで座っていた二人は視線をそれに向ける。
「大丈夫だろ…」
アシュラは溜息交じりに返答した。
は彼の顔を見ないまま、雨によって散っていく桜の花弁を眺める。
晴れた日に舞うように落ちるものではなく。
静々と流れるように落ちていく。
儚くて、なんだか悲しくて。
はいつの間にか涙を零していた。
「…うわ」
いつの間に彼女の横顔を眺めていたのだろうか、アシュラが驚く。
零れ落ちた雫に動揺しながら、に触れられるすぐ近くに身体を移動させた。
彼の長い髪が揺れ、の黒髪も揺れる。
「…あは、なんでだろ…」
二人の視線は絡まった。
ワザと向き合おうとしなかったわけじゃない。
ただボーっと空を眺めているのが居心地が良くて。
アシュラとの距離感が不思議なくらい好きで。
「ご、ごめんなさい」
ぽろぽろ…
雨よりも激しく涙が頬を伝う。
アシュラが困るから止めようと思うのに、意味不明な涙は止まることはなかった。
それ以上に嗚咽まで漏れてしまう。
「わかった!わかったって」
温かい腕が伸びて、の身体を包んだ。
「落ち着けよ…、なぁ」
耳元のすぐ側で似合わないほどの優しい音色が聞こえる。
吐息が肌に触れ、どことなくくすぐったい。
「…お前の涙は…苦手なんだ」
頭をかきながら、アシュラはの頬に舌を這わせた。
生暖かい感触が頬を伝い、涙の雫を優しく拭ってくれる。
「……落ち着いた、か?」
困り顔で口元だけ笑みを作る、不器用な彼の笑顔。
証拠に頬は赤く染まり、それ以上の言葉は吐けない。
はくすりと肩を竦めて笑うと、いつものように微笑んだ。
「…ありがとう、アシュラくん」
まだ彼の腕の中。
空を眺めていたあの距離感よりもぐっと近い。
すぐ側で心音も聞こえてしまいそうだ。
これからもっと彼との距離は縮まっていくだろう。
いつの間にか雨は止み、桜はキラキラとした光を反射させていた。
『皆を呼んでお花見しようか』
思いついた台詞を飲んで、はアシュラの腕の中で瞼を閉じる。
もう少し…
もう少しだけ…
ずっと このままで。
320000番を踏んでしまったちづる嬢へ(ぉぃ)
なんていうか、まさか踏まれるとは思っていませんでした。
しかも目の前で(爆死)
既存ヒロイン。お相手はアシュラ。
キーワードは桜・雨・縁側でした!
ありがとうございましたー!!!