フェンリル・ストーリー人気投票2位特典
『口にしたくなかった』




――あぁ、女神アルカヤ様。

お願いです。

どうか、どうか……!!

彼女を僕に近づけさせないで下さい!!











チームJ(ジョーカー)の一員として、活躍しだしたのはいつだったのか、クローヴァは忘れた。
それは彼にとって、どうでもいいことだったからだろう。

そう、どうでもいい。

女神アルカヤの元、己の武を揮う場所さえあれば、なんだっていいのだ。

幸い、チームJの他メンバーは、腕に覚えがある者たちばかりで、受注できる依頼はほとんど全て。
そのため、強い魔物などと対峙する機会に恵まれる。
これほど、クローヴァにとって、幸せなことはなかった。


平々凡々と、そんな毎日を送っていたクローヴァだったが、あるときから歯車が狂う。

それは、あの忌々しい依頼から始まった。



「さぁ、脱げ」

「嫌です」

「え〜?しょうがないなぁ、俺が脱がしてあげるよ〜!」

「あんたは人の話を聞いてないのか!嫌だつってんだよ!!」

高圧的なハーツと阿呆全開のスペードに迫られながら、クローヴァはほぼキレていた。
だが、後ろからダイアにとっ捕まえられ、スペードに服を脱がされはじめる。
実は、依頼を受けたのはいいが、若い女人を生贄にする竜を誘き出すために、誰かが女装をするという展開になっていた。
このときだけ、女性で手伝ってくれる冒険者を募っては見たものの、一人で旅している女冒険者というのは、なかなか難しい。

(くっ、この屈辱、全員、殺すっ!!)

物騒な考えに至ったと同時に、呆れたように光景を眺めていた酒場の店主モナが嬉しそうな声を上げた。

「どうしたの?ちゃん」

「あ、いや、その人たちに用事があるみたい……」

はたっとその声の主と目が合う。

淡い水色の長い髪を揺らしながら、困惑している表情を浮かべているエルフの女がそこに立っていた。

(な……っ)

一気にクローヴァは、自分の体温が急上昇したことを知った。

嬉しそうなスペードたちの声とは違って、クローヴァは真っ赤になったままプルプルと小刻みに震え始めていた。

(じょ、女性と、い、一緒に仕事だなんて……っ!!)

先刻の半裸を見られたという事実よりも、クローヴァにとってはそちらのほうが、問題だった。
クローヴァは女嫌いなのである。
これは、本人が女性と対峙した時に、極度の緊張体質になって硬直してしまう為、その無様な姿をさらさない為に、ということなのだが。

ともあれ、彼女とは、そういう出会いをしたのだった。





そうして、なぜかクローヴァたちチームJと彼女は、度々一緒に仕事をすることが多くなった。
また、同じギルドに所属していることもあって、それ以外にも会うことは多い。


そのたびに、クローヴァは激しい動悸と眩暈に襲われていた。

しかも、問題は……、に対して、その緊張感がさらに増すという事実だ。

認めたくはなかったが、クローヴァは確実に彼女を好きになっていると、自身で気づき始めてきた。


もし、自分がこんな性格でなければ。

声を大にして言いたい。
彼女を好きだと、彼女を愛してしまったと。
素直に認められるのであれば……、この張り裂けそうな胸のうちを語ってやりたい!

(僕は……、が好きだ……っ)

悶々とする日々は、我慢という名では役不足で。




――女神アルカヤ様、どうしてでしょう?!

これは、貴女が僕に与えた試練なのでしょうか!

……あぁ、本当に、本当にどうか!!

それだけは勘弁してくださいっ!

…………もう、近づけさせないで下さい。

これ以上、耐えられないんです。

もう、喉のすぐそこまで……、言葉が……押し寄せてきているから。




必死に女神アルカヤに祈る彼の耳には、やがて聞こえるだろう。

「ところで、彼は一体何をしているの?」

心を乱す、唯一の存在の声が。


夢小説になってないかもしれませんが(ホロリ)
クローヴァくん視点ってことで。

彼は人気者になりましたね。
皆さん、ツンデレ好きですね?(ぇ