もしも質問第二弾☆投票結果パラレルドリーム
『もしもの無人島物語』



私は)。
ごくごく平凡な人生を満喫している普通の女子だろう。

―――この日、私は幼なじみの雷(ライ)と飛鳥(アスカ)に誘われて、初の海外旅行に行くことになった。
パスポートなどの手続きで落ち着かないというのに、 他に誘った女友達はことごとくキャンセルになる。
しかも、幼なじみの二人だけではなく、一緒にいくメンバーの中にはあまり会話した事のない二人がいた。
さん、飲み物のサービスが回ってきたみたいですよ。何を飲まれますか?」
その内の一人、葵(アオイ)くんが隣で柔らかい笑顔を浮かべながら、私にそう尋ねた。
「あー…じゃあ、その…アイスティーをお願いします」
優しい雰囲気に戸惑いながら、私はそう答える。
「はいv…ではクロスは?」
アオイくんはさらに私の隣に座っている(つまり飛行機の窓側にいる)クロスくんにもそう尋ねた。
クロスくんは窓から差し込む光に照らされながら、薄い色の髪を揺らす。
「じゃあ…ココア」
外見に似合わない丁寧な発音の日本語を紡ぐと、そう言ってすぐに窓の外に視線を戻した。
クロスくんはハーフらしい。
…らしいと曖昧なことしかいえないのは、本当にそれ程仲良くないからである。
そう、この二人とはあまり会話した覚えがない。
なのに…何故、私はこの二人に挟まれて飛行機の座席に座っているんだろうか?
ち、沈黙が重いよ…っ!
「おい、!」
その時、私の後頭部を軽く小突きながら、後ろの列の席に座っていたはずのライが腰を少しだけ浮かしながら笑っていた。
「い、痛い!何すんのよっ」
私は心底ホッとしながら、軽口を叩く。
「外!…窓の外をみてみろよ」
興奮した口調で、少年のような笑みを溢しながらライは窓を指差した。
ライのその言葉を聞きながら、私の隣にいたクロスくんは穏やかな笑みを浮かべて『どうぞ』というように少しだけ身体をずらしてくれる。
その行為に甘えながら、私は身体を乗り出した。
「わぁ…!」
「…さすがに綺麗ですね」
私の後ろで微かな視界から覗いたのか、アオイくんもそう感嘆の声をあげている。
窓に両手をくっつけて感動していると、座席と窓の隙間から後ろの席が覗けた。
覗いた瞬間に窓の外を眺めていたアスカと綺麗に目が合う。
彼は意味深に口角を緩ませると、いつものように左目を一度閉じてウィンクを私に投げた。
どこにいっても女子に人気のある男の子だった彼の得意技。
いつもの私には効かないものだったけれど、何故かその時は思わず赤面してしまった。
不覚。…だけど、きっと日本じゃない美しい海外の海と空の景色が見せた魔法の所為だと思う。
だから、いいや。

「もうすぐ着陸だよな…」
すぐ側でクロスくんがそう言った。
そうだ。こんなに近くに海と島がみえるのだから、もうすぐ着陸のはずである。
「ライ、ちゃんと座っておきなさいよ?はしゃいで怪我してもしらないから」
「…あのな」
ライが私の発言に気に入らなさそうに拗ねた表情を作った。
その表情を見た瞬間だったと思う。
ふら…っと機体が一瞬揺れた。
その揺れの瞬間にお手洗いに行って帰って来たと思う長身の綺麗な男の人が『失礼』と乗務員の女性に会釈をしたと思う。
そして座席にもたれていたライの姿が視界から消えて、もう一度すごい衝撃が私たちを襲った。
誰も何も予想しなかった出来事。
どこかの機体の壁が破れるように飛んで、風が荒らしのように舞う。
視界はしっかりと保てなくて、ぎゅっとクロスくんとアオイくんが私の手を握ってくれていたようだ。
ただ、記憶に残っているのは…様々な悲鳴と叫び声。
味わった事のない揺れと、心の底からの不安感。
私は耐え切れなくて、そこで意識を失った。意識が切れる瞬間に空を飛ぶ人間を見た気がする…。



―――次に意識を戻した時、私はそこが天国かと思った。
「…じゃあ、俺は天使か神様かよ?」
フレームのついていない小さ目の眼鏡をかけている男の人が、苦笑しながらそう言った。
「…それにしたら、目つき悪いかも…」
猫目といえばいいのか、少しだけ目付きの鋭さに対して言葉を呟くと、いきなり額をペシリっと軽く叩かれる。
「いっ、痛い!」
薄めの栗色っぽい色をした男の人を訴えるように見つめると、男の人は軽く溜息を吐いた。
「お前が失礼なこと口にするからだろ。気をつけな」
自分の口の悪さを棚に上げながら、彼は笑う。だけど、その笑顔は子供っぽいような無邪気さを残していて私は好きだった。
「…って、ここ何処ですか?…そうえいば…飛行機が」
「そ。あんなことになるなんて、普通思わないって!」
頭と腕に包帯を巻いている別の男性がそう隣で続く。
「…俺はルシフェル。お互い、あの状況下で助かったんだし、宜しく♪」
「は、はい…」
軽く笑って、ウィンクをしたルシフェルという男性の表情を見て、私は慌てて上半身を起こした。
「っ!!」
「ばっ…!」
その瞬間、ごちんっ!!という物凄い音が響いて私とあの眼鏡の男の人は同時に額をおさえる。
「こ…〜〜っの馬鹿っ!!」
「ご、ごめんなさい!!」
涙目で謝ると、男の人は長い溜息を吐き出した。
そっと、膝枕をしてくれていた男の人から離れると、私は静かに辺りを見回す。
アスカとライ、それにアオイくんとクロスくんは…?
意識を失う前のリアルな映像が胸を急激に締め付けていく。
辺りは真白な砂浜と青い海。そして背後に広がるのは…小さな密林。
砂浜には飛行機の残骸なのか、この景色には不似合いな人工物が数点あった。
「…お前の友人のやつらなら無事だぜ」
眼鏡の男の人が私を安心させるようにそう言った。
「…ほら、噂をすれば」
木陰にいる私たちの元へ数人の足音が聴こえる。
その音がする方へ振り返ると、見慣れた顔がちゃんとあった。
私は安心したのと、嬉しかったのと、色々あって、思わず駆け出す。
自分でも信じられずにアスカに抱きついた。
「わ…っ、ちょっと、ちゃん?…大丈夫?」
「う、うん…大丈夫…」
驚いているアスカの表情で我に返ると、私は腕を放す。だけど、その優しい音色のアスカの言葉に涙が溢れかえった。
「な、なんで泣くんだよ?」
ライの言葉に私はそのまま泣き出した。
「だって!!…気づいたら、皆いないし、…あんなことがあったし…っ、ライが落ち着いて席についてないからよーっ…」
「…俺のせいかよ」
溜息を吐きながら、ライは優しくぽんぽんっと私の頭を撫でる。
アスカも優しい手つきで髪を撫でてくれた。
「…しかし、五人揃って無事で何よりですよね」
アオイくんの声が聴こえて、私は何度も何度も首を縦に振る。
「…ふふ、君たちは運がいいのかもしれないね」
聞き慣れない音色が私の首の動きを止めた。
艶のある色っぽい音色。
顔を上げると、4人の後ろにその男の人は立っていた。
ずっと私のやり取りを見られていたのかと思うと、少しだけ恥かしい。
綺麗な顔立ちの長身の男性。
日本語は上手かったけれど、日本人じゃないのははっきりとわかる。
さっき会ったルシフェルさんと一緒で、この人は異国の地の人だ。
あれ、そういえばルシフェルさんも日本語は上手かったけど…。
やはり日本に何年も住んでいれば上手くなるものなんだろうか…?

「全員、揃ったな…」
先ほどの眼鏡の男性が砂埃を払いながら、そう言った。
この人はハーフか何かだと思う。
「…俺はゼア。まぁ、国籍は日本だが、ハーフちゃあハーフ。…普段は医者をしている」
手に持っていた黒い大きな鞄を広げて、鞄の中に入っている包帯や薬品を私たちに見せてくれた。
「ボランティアで出張…といったところだった。ま、医者と一緒に助かったなんて、運がいい方だろ」
眉間にしわを寄せて、ゼア先生(なんかお医者さんだと聞いたらこう呼んでしまう)は溜息を吐く。
「…さっきも名乗ったけど、俺はルシフェル。二十歳。双子の兄と故郷へ戻るとこだった」
「…え」
「あはは!そんな心配そうな顔しなくてもいいって!あいつもきっと大丈夫。俺は信じてるし」
私の表情にルシフェルさんは明るく笑ってくれた。
「えっと、私は…といいます」
「俺はアスカね」
「俺がライで」
「僕はアオイといいます」
「クロスです。…俺たちは5人で海外旅行するつもりだったんですが」
「とんだ海外旅行になったな」
クロスくんの言葉を聞いて、ルシフェルさんが苦笑する。
「貴方もとんだ里帰りで…」
同じように言葉を返して、クロスくんとルシフェルさんははぁっと溜息を吐いた。
「まぁ…、命があるだけよかったじゃないか」
そっと後ろで見守るように立っていた長身の男の人が小さく笑う。
「…で、お前は?」
ゼア先生がその笑みが気に入らないというような表情で尋ねる。
「あぁ…、俺かい?…俺はダーダイル。見れば判る通り、日本人じゃない」
左目にしている眼帯に少しだけ触れながら、彼は続ける。しかし、その仕草を見た瞬間、私はこの人を思い出した。
そうだ、この人は意識を失う前に一瞬見た。
色っぽい音色は一度耳にしたことがある。
「…仕事は企業秘密ねv…まぁ、ただ、旅行者と変わらないってことかな」
「ふーん」
ルシフェルさんが興味なさそうに相づちを打つ。
『失礼』…脳裏にダーダイルさんの音色の響きを思い出す。
あの時、席を立っていた男の人。
よくあの状況で無事だったことだ。
「…ふふ、まぁこの辺りには無人島がたくさんあるからね。ここに流れ着いていなくても別の島に流れ着いた場合もあるだろう」
「…あぁ、そうだな」
「だから、君の兄さんも無事だろう」
「…サンキュ」
ルシフェルさんの心の焦りを感じ取ってそう言ったのか、ダーダイルさんは不思議な人だった。
「…それにしても、これからどうするか…なんですが」
アオイくんが冷静に言葉を紡いだ。
空を見上げるとだんだんと空の色が朱色に染まってきている。
何も隔てるものがない空には綺麗なグラデーションが描かれていた。
こんな状況下でさえ美しいと思ってしまう自然の色。

「…まぁ、まずは流れ着いた荷物から役に立ちそうなものを探そうか」

私たちは少し戸惑った後、ダーダイルさんの言葉に頷く事しか出来なかった。
プライバシーとかそうもいっていられない状況である。
何もしなければ、きっと死んでしまうから…。



「で、役に立ちそうなものは?」
ゼア先生が頭をかきながら、枯れ木を集め終えた時にそう言った。
「…飛行機の残骸」
「屋根にはなるな。次」
「…衣服がつまった鞄。…濡れてるけど」
「まぁ、そりゃあ俺たちも一緒だったし、直に乾くだろ」
「…お酒が入った瓶…」
私の順番が来て、私は両手いっぱいに抱えていた数本の瓶をゼア先生に手渡す。
「サンキュ!…火をつけるのにも丁度いい」
「おや、勿体無い」
よくこんな状況でそんな言葉が出るなと感心しながら、ダーダイルさんを見上げた。
ゼア先生の方は見上げるというより、睨みつける感じでダーダイルさんを見てる。
「…ふふ、恐いねv…俺は向こうでビデオテープが詰ったダンボールをみつけたよ」
「ビデオテープ…で、どうすんだ?」
ルシフェルが首を捻ると、ダーダイルは小さく笑ってから一本のテープを取り出し、黒いテープの部分だけをビリビリと千切り伸ばす。
「縄のように頑丈だとはいえないが、それに似たものとして代用できるだろう」
「へー…」
「あぁ、それ何かの映画でみたことがありますよ」
アオイくんが頷きながら微笑む。
アオイくんの手には見慣れた鞄があった。
「…あ!」
「ふふ、やっぱりこれ。さんのですよね?」
アオイくんが持っていたのは紛れもなく私の鞄。
私が大事にしていたマスコット人形がチャックのところに括り付けられている。
アオイくんから受け取って、自分の鞄をぎゅっと愛しげに抱きしめてみた。
濡れていたし、砂粒も色々ついていたけれど、なんだか懐かしいようなそんな気分になる。
「…ありがとう、アオイくん」
「いえ。偶然ですから。…だけど、喜んでくださって良かった」
アオイくんの優しい笑顔に思わず私も笑顔になる。
の鞄の中にはなんか入ってないのか?」
「…着替えと…。浮き輪と…チョコレートと飴…?」
ライの言葉に鞄の中を漁りながら、私はそう答えた。
「浮き輪っていっても、ちゃんが入るサイズだろうし…」
「うぅ、あんまり役立つものもってなくてごめんなさい…」
私が方を小さく竦めると、アスカは優しく私の頭を撫でてくれる。
「大丈夫♪…俺も似たような感じ。ビーチボールとサンダルとか、…唯一役立ちそうなのは肝試しに使おうと思っていた懐中電灯?」
場の空気を明るくするようにアスカは自分の顔を照らしてなんかみせる。
「アスカも鞄あったんだ…?」
「うん、後はライもね。クロスとアオイの鞄は見つかんなかったし」
「そそ。俺も懐中電灯はあって、…後は着替えとか。…湿った花火ならあるけどな…」
「花火か…」
ゼア先生が苦笑しながら溜息をついた。
湿った花火は役立ちそうにない。
希望を残して、火の側で乾かしてみようということになったが、皆はあまり期待してはいなかったみたいだった。
火を熾すのはとても楽だった。
ダーダイルさんが持っていたライターが運良くというか使えたのである。

「それで問題は食べ物か…」
クロスくんが焚き火の火を無くさないように枯れ木を上手に重ねていく。
少しでも湿ったものを置いてしまうと、すぐにか弱い炎は消えてしまうのだった。
「チョコレートと飴玉は食料じゃないもんね…」
私が呟くと全員は深い溜息を吐く。
私が気を失っている間に皆はこの島を見てきたそうなのだけど、本当に何もない島だったらしい。
「まぁ、あんな事故だし、ニュースはすぐに放送するだろ…。すれば、救助隊が探しに来るだろうし」
ゼア先生は落ち着いた言葉でそう言った。
「そうですね。俺もそう思います」
クロスくんが大きく頷く。
「…煙でも絶えず焚いておけば、きっとヘリコプターか何かの捜索時に目にとまりますよね」
アオイくんも同意してから、そっとアルコールの瓶を数えるように眺めた。
そんなに数は多くない。
「そうえいば、木の実とか見かけたな…」
雰囲気を戻すようにライが足についた砂を払いながら立ちあがる。
「あぁ。…食べれるかはまだわかんないけど」
「どれ?」
アスカの続いた言葉にルシフェルさんが視線を動かした。
「…っと、あれとか?」
ライが近くにあった木の実を指差す。
ルシフェルさんはそれをじっと見つめると、軽く笑みを浮かべた。
「クリアだな♪」
「…あんた、わかるのか?」
アスカがルシフェルさんの顔をまじまじと眺めると、ルシフェルはちっちっちっと口の前で人差し指を左右に動かす。
「…植物に関してはちょっと詳しくてねv」
そして得意げに左目を閉じて見せた。
「…それなら」
ライが裸足で軽々とその木に登っていく。
「ライ!気をつけてね」
下から叫んだ私の声にライは問題ないとでもいうように笑った。
なんだか昔からこの光景をずっと見てきた気がする。
近所の神社の神木に登って怒られた事もあった。
「…ほらな?」
暫くするとライが降りてきて、二つほど木の実を手にしている。
「やるじゃねぇか。…まぁ、この人数だし、もっととってきてもらいたいがな」
ゼア先生がその木の実を受け取りながら口元に笑みを作った。
それからライは何回か往復して色んな木の上を上る。
その間にアオイくんとクロスくん、ゼア先生のメンバーで大きな草の葉やバスタオルなどで床を作った。
それから飛行機の残骸や何かを覆っていたビニールなどで屋根のようなものを作る。
小さなテントのようなものがいつの間にか出来上がっていった。
その中心には風で倒れていた細い木の幹を使用したりして、それの補強にダーダイルさんが集めてきたビデオテープのテープが大活躍している。
私は呆然とそれをみているだけだった。
たまに夜空を見上げて、綺麗な星空に泣きたくなったりしていた。
「…お母さん、きっと心配してるよね」
「…そうだね」
私の独り言にアスカが返答する。
少しだけ驚いたけど、私は彼の顔を見ずに空を仰いだまま言葉を続けた。
「…大丈夫だよね?私たち、こんなところで死んじゃったりしないよね?」
「大丈夫」
優しい音色が私の心をそっと包む。
同時に右手をアスカの温かい手が握ってくれた。
「あ、ありがと」
「ううん…いいよv…ちゃん」
名前を呼ばれて私はアスカに顔を向ける。
いつも見ているはずの彼の顔だったのに、胸の鼓動は早くなるばかりだった。
「…どうしよ、ちゃんが滅茶苦茶可愛いんだけど」
「な、何言って…」
すぐ側で皆が一生懸命に作業を進めているし、大体いきなりそんなことを言い出すなんて困ってしまう。
「…ふふ、誰も気づかないって」
「気づくとか気づかないとかそういう問題じゃないと思いますが?」
「あ、アオイくん?!」
冷たい音色でアスカの後ろにアオイくんが立っていた。
手にはテープを持っていて、アオイくんの目が一瞬妖しい光を帯びた気がする。
「お〜前〜は〜…っ!こんな状況で一体何を考えてるんだっ!!」
「ギャ―――っ!!首締めんなっ、マジ死ぬっ!!ギブギブっ!」
「…あ、あはは…」


作業が落ち着くと、ライが一生懸命集めてくれた木の実を皆で分けて食べた。
ルシフェルさんの言った通り、甘くて美味しいものだった。
ただ、すごく匂いがきつくて、一瞬騙されているんじゃって思ったけど…。
そして、私たちは一番必要なものを思い知らされる事になった。
それは水。
木の実には多少の水分はあったけど、必要摂取量の半分にも満たないものだと思う。
…そう考えると、早く救助隊の人たちが私たちを見つけてくれることを祈るばかりだ。


目が覚めると、まず寝惚けたようなクロスくんの顔がすぐ間近にあった。
ただでさえ狭い家を作ったので、寝るところも狭かったし、むしろ人の上に人が寝ているといってもいいかもしれない。
そんな中、唯一の女性だからか、皆私の寝る場所だけはしっかり確保してくれていた。
嬉しかったけれど、申し訳ない気持ちになった。
しかし、いざ起きてみれば、目の前にクロスくんがいる。
「…あ、ごめん…」
クロスくんは少し低めのトーンでそう言った。
「う、いや、うん、私は平気だけど…どうして?」
「…ライに蹴られた」
そう言えば、ライは寝相が悪いんだっけ。
上半身を起こして見渡すと、クロスくんの背中を思いっきりライの足が蹴っている。
そしてそのライはルシフェルさんとアスカの上に綺麗に寝転がっていた。
端の方でアオイくんが優雅に寝息を立てている。
ゼア先生とダーダイルさんの姿はなかった。
「…お、重いっ!!」
ライが寝返りをうった瞬間、ルシフェルさんが眉間にしわを寄せて立ち上がる。
それにより、全員が目を覚ますことになった。

日差しは眩しい位に照り付けている。
木陰で木の幹にもたれながら、ダーダイルさんが何かを作っていた。
どうやらそれは槍みたいなものだった。
鋭そうな黒い尖った石を木の棒の端にくくりつけている。
「さすがにずっと木の実だけではね?…魚をとらないと」
その言葉に感心して頷くと、ダーダイルさんはくすりと妖艶な笑みを浮かべた。
「…君もチャレンジしてみるかい?」
「あ、はい!」
昨日散々役立たずだったし、私に手伝える事があるならやりたい。
「いい子だね…。それじゃあ…濡れてもいい格好になっておいで?」
「…あ、水着?」
「ふふ、そのままでもいいけど、大変そうだしね」
ダーダイルさんの言葉に私は首を縦に振って、創作テントの中に戻る。
その時、ゼア先生が乾かしてみた花火に火をつけてみていたが、やはり花火として機能しないようだった。
テントの中に誰もいないのを確認してから、私は水着に着替えた。
それはアスカが選んでくれた黄色いビキニの水着で、普段の私なら絶対に着ないものだった。
ただ、あまりにもアスカがそれを勧めるものだから少しだけ勇気を出してきたのである。
「いいかー?…っと」
「わわ!はい、大丈夫ですよ?!」
入ってきたのはルシフェルさんだった。少し慌てていたけど、私の格好が水着であると判ると、少しだけ安心したように私の側まで寄ってくる。
「へー、可愛いな」
「あはは、ありがとうございます」
お世辞だと思ったから私は微笑んでそう返した。
その瞬間、ルシフェルさんがそっと私の肩に手を置く。
「…あのさ」
ルシフェルさんの顔が急激に近くに迫ってきた。私はその行為に驚いて戸惑うだけ。
「…4人の内、どれが彼氏?」
「え?!か、彼氏なんかじゃ…」
突飛な質問に私は首を横に振る。
「あれ?どれも彼氏じゃないわけ?」
「あ、当たり前です…っ!」
「…ふーん、そう」
ルシフェルさんの目が少しだけ意地悪そうに光った気がした。
綺麗な指が私の顎に触れ、優しく持ち上げる。
「じゃあ…こんな状況で芽生える恋ってのを味わってみない?」
「…えっ!!」
ルシフェルさんの唇が私の唇に重なりそうになる。
思わず、ぎゅっと目を閉じてしまった。ルシフェルさんの綺麗な顔が近づいてきて、とても目を開けていられなかったから。
しかし、いつまでたっても唇は私の唇には届かなかった。
「…悪いんだけど、彼女は俺が狙っているんで♪」
「…へー」
「あ、アスカ?!」
声が聴こえたので、目を開けるとそこには間を邪魔するアスカの手があって、私の後ろにアスカがたっている。
「大丈夫?…俺が選んだ水着、来てくれたんだねv」
外の日差しのように眩しい笑顔に私は小さく頷いた。
「ふーん。…まぁ、まだチャンスはあるだろうし…ネ??」
「わっ、え、えっと…」
ルシフェルさんのウィンクにも困ってしまう。
「お、お邪魔しました―――っ!!」
「あ」
「逃げたな」
二人の呟きが聴こえたけれど、私は全速力でテントを後にした。



「おっと、そんなに慌てて…危ないよ?」
下を向いて走っていると、ダーダイルさんの広い胸元が私を抱きとめてくれる。
「わわっ!ご、ごめんなさいっ!!」
私は慌てて彼から離れると、自分自身を落ち着けるように深呼吸を小さく繰り返した。
それを眺めながら、ダーダイルさんが不敵に笑っていたけれど、私は全く気づかない。
「君を待っている間にね、同じ槍が三本ほど出来上げってね。…クロスとライにも手伝ってもらう事にした」
「あ、そうなんですか…」
たしかにあの二人なら適材適所というか…魚捕り上手いかもしれない。
「…さて、それでは…君もね。…君の場合は俺が側で見てあげるから」
「あ、はい!宜しくお願いいたします」
ダーダイルさんの持つ、槍を見つめながら少しだけ緊張感が高まっていく。
クロスとライが頑張っているのだから、ちゃんと私も彼らに負けないようにしなくちゃいけない。
できれば早く救助隊に見つけて欲しいところだけど、何もしていないと見つけられる前に飢え死にしてしまう。
「…あそこだね」
まず手本を見せようというようにダーダイルさんが槍を海に突き刺した。
それは海が一瞬煌めいた瞬間だった。
「…うわぁ…」
私はただ感動して目を大きく見開けるだけ。
槍の尖端に大きめの魚がある。
残酷なことをしているのかもしれないけれど、生きるためには仕方がない。
ダーダイルさんはいつの間に作ったのか、ビニール袋で補強した小さ目のダンボールに捕った魚を入れていく。
「さぁ…君の番だ」
槍を手渡された。軽がると操っていたように見えていた槍は意外と重くて、扱いにくい。
「…あそこ」
ダーダイルさんが私の肩と腰に手を添えて、耳元で囁いた。
キラキラと水面が光ってそこに魚がいるのが判る。
だけど、私の鼓動は別の意味で早く脈打っていった。
耳と首筋に触れるダーダイルさんの甘い囁きの息遣いが、体の調子をおかしくしてしまう。
「…頑張って?」
もう一度ゾクゾクとした感覚が背中を走った。
私は心の中で何度も首を振りながら、槍を大きく突き刺す。
しかし、感触は何もなかった。
「…ふふ、どうやら逃げられたね?」
「そ、そうみたいです…」
私ががっくり肩を下ろすと、ダーダイルさんはくすっと口元に笑みを浮かべた。
「まぁ…でも、餌蒔きは…もう十分かな?」
「…え?」
意味が理解できなくて、ダーダイルさんに顔を向けた瞬間、その唇が強引に奪われる。
「…んっ、ぁ…」
意地悪そうな緋色の瞳が妖しい光を帯びていた。
ダーダイルさんの両手が私の胸を包むように揉む。
「…濡れてもいい格好って俺はいったよね…v」
「…〜〜〜っ!」
真っ赤に顔を染めたのが自分で感じられた瞬間、空に花火が上がった。
「…花火…」
「…おや」
小さ目の打ち上げ花火は連続で模様を描く。
「…よかったぁ…」
?!」
その瞬間、安心して言葉をもらした私は意識をそのまま失うのだった…。




次に目が覚めたときにまず飛び込んできたのは心配そうなライの表情。
「…何その顔…」
私が笑うと、ライも眉を寄せながら笑い返してくれる。
「お前、すっげー高熱出てたんだぞ」
「…そ。俺が薬を持っていなかったら、危なかったな」
ゼア先生が隣にいた。
「…あ、先生…、花火、あがったんですね」
「あぁ…。アオイが諦めないでやってみましょうっていってな」
柔らかい笑顔。
「そういえば…ここ」
「あぁ、ホテルの一室」
ライが私の質問に即答する。
「事故のお詫びに三日間は無料だってさ」
「それまでは一緒だな。…俺も利用させてもらうわけだし」
「だったら、一緒に行動できますね」
私はなんだか嬉しくなって言葉を紡いだ。
無人島で過ごした時間は本当に短いものだったけれど、偶然に同じ島に辿り着いた人たち。
「お♪!…お目覚めかな?」
「ルシフェルさん」
相変わらず、頭と腕に包帯を巻いている姿のルシフェルさんに私は微笑む。
「お兄さんがみつかってよかったですね」
その後ろを歩いてきていたアオイくんが穏やかな笑顔でルシフェルさんにそう言った。
「あ、お兄さん、見つかったんですか?!」
「あぁ、うん。無事だったよ。まぁ、笑ったのは同じところ怪我してたってことかな」
苦笑しながらもルシフェルさんはなんだか嬉しそうだった。
「ふふ、私、お兄さんにお会いしたいです」
「…うーん、でもそれはパスだな」
「え?どうして??」
「…ここまでシンクロ率高いと、同じ女好きになっちまうだろ?だから…v」
「んっ?!」
いきなりベッドに横になっていた私の唇にルシフェルさんの唇が重なる。
スッパー――ンっっ!!
「何してるんですか…っ」
「つか…お前こそ、人の頭をスリッパで何叩いてんだ…っ」
「…え、条件反射…でしょうか…」
「……」
二人のやり取りを眺めながら、私は呆然と自分の唇に触れた。
「…、消毒…しようか?」
ライが少し顔を赤らめながら、眉間にしわを寄せた怒ったような表情でそう言う。
一瞬、何を言っているのかわからなかったけど、その表情でなんとなくその言葉の意味が理解できた。
「それって…」
「…勿論、その消毒の役目は俺にあるよね?ちゃん♪」
アスカが急に部屋の扉を開けて、やってくる。後ろにはクロスくんも立っていて、その後ろにはダーダイルさんがいた。
「ふふ、…おはよう」
ダーダイルさんの顔を見れずに私は下に俯く。
そうだった、この人も三日間ずっと同じホテルなんだ。

「まぁ…、その話はまた別の話ってことかな」

最後のクロスくんの呟きでこの物語は幕を閉じる…のだった。


こちらはもしも質問第二弾『もしも無人島〜』投票結果の完全パラレルドリームです(笑)
ヒロインは完璧に読み手の方だと思っていただければ幸いですし、後、設定がドリーム(爆死)
幼なじみとか(血反吐)
ギャ―――☆
外見などがゲームそのままキャラだというだけの品物ですが(鼻血)
気に入っていただければ嬉しいです(苦笑)
ぜひぜひご自身のお名前をいれて呼んでくださいね♪
すごく長くなって申し訳ないですv
ではまたー!!