キリリクドリーム小説・50000番・未月輝夜様へ
『虹の掛け橋』



鬱陶しいぐらい雨が続いていた。
雨の日が長く続くと、退屈を生み出す。
コルチェやルシフェルの二人のおかげでなんとか生み出された退屈は多少は解消されていた。
しかし、彼らが仕事に出かけたりしているときの間、は暇だった。

リビングにある、中庭が見える窓に額を押し付ける。
色とりどりの薔薇。
ルシフェルが育てた薔薇たちが、冷たい雨に耐えながらそこにいた。
空には太陽の姿を覆い隠す重そうな雲がどっしりと構えている。
ガラスの向こう側を水滴が何度も何度も直線を描いて、重力の流れと同じ方向に落ちた。
たまに二股に分かれては真っ直ぐ伝う。
額が少しだけ冷たかった。

いつの間にかリビングの椅子に腰をかけて寝ていたようだった。
肩にはそっとピンク色の薄地の布がかけられている。
甘美な匂いが鼻孔を擽る。
いつも嗅いでいる香りだった。
は席を立つと、そっと椅子の背に布地を掛けてから足を進める。廊下に出て角を曲がった先にある扉。
ゆっくりとその扉のノブを回した。
久し振りに見た明るい日差しがとても眩しかった。
ガラス越しで眺めた時も眩しかった気もするが、直接受けた日の光は身体を焼き焦がしてしまいそうなぐらい強い。

雨は止んでいた。

「あ…」
はもっと目を細める。
「よ♪姫v」
軽く左目を閉じて、彼は笑った。
太陽の光と同じくらい、いやあるいはそれ以上にその存在が眩しい。
「…ルシフェル、おかえり」
「あぁ、ただいま。…つっても、だいぶ前だけどな?帰ってきたの」
からかうように笑うと、意味深な瞳でを眺める。
「だったら、起こしてくれてもよかったのに…」
眠りについていたのは不可抗力だったし、は彼の帰りを待ち侘びていたのだから。
「あー、気持ちよさそうに眠ってたから、悪いと思ってね」
悪気がなさそうに肩を竦めると、ルシフェルはちょいちょいとを手招きした。
は彼のその手に誘われるように近寄る。
庭中に咲き誇る薔薇の香りたちが一層強まった気がした。
「…虹v」
とっておきの秘密といわんばかりの言い方でルシフェルは囁く。
「あ…、綺麗…」
は静かに微笑んだ。
ルシフェルが指差した先には小さな虹がかかっていた。
薔薇と薔薇の少しの間にある小さな隙間。
そこに艶やかな虹の橋がそっと架かっている。
薔薇の花弁から零れ落ちる雫が葉に落ち、そのまま葉の表面を滑って湿っている地面へと落下した。
「…雨は嫌いだったけれど、…少しだけ好きになったわ」
艶やかな音色では小さく続ける。
「雨が去った後にはたくさんの落し物があるのね。…それの一つ一つが…とても綺麗」
真っ直ぐにルシフェルの瞳を見つめていた。
ルシフェルは絡まった視線を解こうとはせずに、優しい面差しでの頬に右手を添える。
「…そうだな」
お互いの瞳の中に互いの姿があった。
はそれを意識した瞬間、少しだけ頬を赤らめて薔薇たちへ視線を向ける。

赤い薔薇の情熱的な輝きが大きくなっていく。

「…ん…」
瞳を閉じて唇が重なり合った。
一度目は軽いキス。
「…こっちの雨も去ったみたいだしな?」
そう言葉を紡ぎ、ルシフェルの舌が巧みに口内へ侵入する。その甘いキスが二度目。
「…雨って…」
「目、赤いぜ?」
急激に熱が駆け巡っていく。
はもうまともにルシフェルの顔が見られなかった。
視線を外した空に大きな虹がかかっている。
「ルシフェル、虹…っ」
誤魔化しも含めて声を張り上げては言った。
しかし、ルシフェルは自分の背にある虹には気にせず、の頭を撫でる。
「…あぁ、見えてるv」
真剣にじっと見つめてくる真っ直ぐな瞳。
「…綺麗だ」
引き寄せられて熱っぽいキスが襲ってくる。
彼がいったのは彼女の瞳に映った虹のことなのか、それとも彼の瞳に映った彼女の姿自身のことだったのか。
はそれ以上問うことが出来ずに、ルシフェルの腕の中で彼の体温を感じるのだった。

花露の輝きは雨の落とした宝石…。
充満した薔薇の香りに抱かれながら、今日もそっと眠りにつこう。


こちらは5万番を踏まれた未月さんのリクエストです♪
リクエスト内容は、既存ヒロインリリス。
お相手はルシフェル。キーワードは『薔薇・雨・輝き』でしたv
うぅ、いかがだったでしょうか…?
キーワードを頂いて思いついたのはこういう話だったのですが、未月さんが望まれたストーリーであれば本当に嬉しいです(汗)不安です〜(滝汗)
勿論、他の皆様にも気に入っていただける事を願って…v