『逆ハーレムのススメ!』 第一話・はじまり、はじまり ――北にある極寒の地。 ここが私の生まれ育った場所『ノーランド』 人間が言う 魔族の国。 …なんて。 聞こえはかっこいいかもしれないけど、私たち魔族は人間との争いに負け、ただたんに北へ逃げるしかなかっただけ。 そう、ただの敗者。 今、魔族は昔みたいに恐れられる存在じゃない。 どちらかといえば、忘れ去られている感じ。 北の地に渡らず、大陸で抵抗していた魔族も滅びの道を辿ったと聞いたわ。 …悔しいけど、真実。 魔王だって今はのほほんとお茶を啜るのが日課になっている。 情けないけど、それが私の父。 そう私は魔王の娘で、名前をララ。 昨日16歳(ちなみに魔族は人間で言う10年が1年くらい)になったばかり。 自慢はこの白銀の髪に赤い瞳かしら? 肌も母親譲りで白い。 今は自慢の髪を左右二つに結って、くるんっと縦に巻いている。 父はロールパンみたいで美味そうとか、阿呆なことを言っていたけれど、これはあの可愛い生物、ウサギをイメージしているの。 …まぁ、自己紹介はそれぐらいにしておいて。 今、私はノーランドから一歩踏み出そうとしていた。 「本当に行くんですか?」 尋ねてきたのは私の執事である、トロイ。 父がある日突然拾ってきた青年で、褐色の肌と闇を溶かした様な黒い髪が印象的。 端正に整った顔は、実は大変好ましく思っていたりする。 「えぇ、勿論よ!」 私の答えに対して、彼は切れ長の紅い瞳を細め、呆れたように私を見た。 …主に対して少し失礼じゃないかしら? 「畏まりました。 では俺は出来る限り貴女のサポートをしましょう」 …棒読み。 言っている言葉は従順だけど、明らかに私を馬鹿にしている。 「いい、トロイ。 人間にこのまま大地を好き勝手にさせていいと思っているの?今こそ魔族の恐ろしさを教えるときよ!」 「…小娘一人が粋がってどーすんだよ」 …聞こえたわよ。 「ま、まずは兵士をそろえないとね!」 私は怒りを抑えながら、話を続けた。 私の魔族世界征服計画はこう。 まずノーランドから出て、一番近い人間の国に侵入する。 …たしかギリアとかなんとかっていう国だった気がしたけど、あんまり覚えてないわ。 そこで、その国の端でもいいわ。とりあえず森に寝床となる住処を作り、そこへふらふらやってきた人間を兵士にしちゃおうってこと。 勿論、兵士は私の奴隷ってことだから、美形の男しかいらないなぁ。 不細工とか女とか邪魔なのは、砂漠に捨ててこないとダメね。 「何ですか、そのえり好み」 「…いいじゃない!世界征服と美形逆ハーレムは常に乙女の夢なのよ!」 「…そうっすか」 トロイは肩を竦めると、大きな欠伸を一つ。 …とことん馬鹿にしてやがるわね、この野郎。 「いいわ、トロイ! 今に見てなさいよ?!すっごい美形ばっかり集めて、たまには俺の相手をしてください、とかあんたを跪つかせてやるんだから!!!」 「え… 世界征服どこ行ったんですか?!」 こうやって私の物語は幕を開けるのだった。 ――俺の名前はトロイ。 一応魔族で、今何故か人間の国にやってきています。 まぁこれは、魔王の末娘であるララ様の執事という立場がそうさせているわけですが… はっきりいってこれはチャンスです。 いきなり何が?と思われるでしょうが、実は『魔族の復讐をするのよ』とかわけのわからないわがままを口にしているララ様は…俺の想い人なんです。 そして今まであの煩い魔王がいたせいで、手を出せず仕舞いでした。 …が。 ララ様の家出(しかも魔王以外は呆れて放置中)に付き合わされた唯一の執事。 ララ様は世間知らずなので、俺がいないと生きていけません(料理や家事なんて全く出来ないんですよ) つまり、彼女の命を俺が握っているということ! 生意気な小娘にお仕置きをしても、彼女を助ける者はいない…。 さらに二人っきりという状況は男女の関係を色濃くするわけで… 「ふむ、この辺りにしようかしら」 森の奥深くで、くるりとララ様は俺に振り向いた。 俺は渋々と魔方陣を描き、そこに館を建てる。 …魔王の城に比べれば小さいが、二人なら広すぎるだろう。 ちらりと横を見ると、ララ様は満足そうだった。 彼女はきっと『世界征服の一歩目』と感動しているだろう。悪いがそれは間違いだ。 ララ様、これは貴女を飼い馴らす為の小屋ですよ。 想像するだけで口元が緩む。 こんなところに迷い込む馬鹿もそうそういない。 …そう思っていたのに。 次の日、俺の計画を踏み潰すような出来事が待っていたのだ。 勿論、この時点の俺は気づいていないわけだが。 「トロイ、楽しみね」 「そうですね、ララ様」 ララ様が世界征服と逆ハーレムに夢見てる頃、俺はちょうどベッドの上で彼女の髪を梳いているシーンを妄想していた。 始まりは本当に… 俺の計画通り平和だったのに… (続) |