【予兆】


占いの館ローレライの占い師レイは、その日5回目となる死神のカードに溜息をついた。
(別に恐れる事はないカードだけど…)
カードの正位置。
(交際不可能な相手への恋…か)
レイはそっと死神を眺めながら、他のカードの束の上にそれを置いた。
「…キーワードは終末と再生」
台座の上にあった水晶球が小さな光を放つ。
本当に微かに…
レイは水晶球に一瞬見せた黒き羽の者を見逃さなかった。
ゆっくりと椅子から腰を離す。
「さて…面白そうなことになったけど〜…」
口元に見惚れるぐらいの笑みが零れ落ちた。
「…暫くは傍観者ってことで〜」
それは誰も返さない独り言の呟きだった。



「おはようございます、リリスさん」
優しい音色にリリスは小さく微笑む。
「おはよう、…コルチェ」
軽くノックをしてから、部屋に入ってきたコルチェは手に半透明な青い花瓶を持ってきていた。
花瓶には可愛らしいオレンジ色の花が3輪飾られている。
「…花は心を和ませてくれるんですよ」
花と同じような効果を持つコルチェの笑顔を眩しそうに見てから、リリスは腰をかけていたベットから身体を離した。
「…ありがとう」
お礼を言う唇の動きが微かにぎこちなさそうに動く。
「いいえ。…今日は気分はどうですか?」
「…えぇ、マシな方だと思うわ」
部屋の真中のテーブルに花瓶が置かれるのを見ながら、リリスは自分の額をおさえた。
「それはよかったです。…リリスさん、これから買い物へ行きませんか?」
「…買い物?」
コルチェの満面の笑顔があまりにも眩しい。
「はい。買い物です♪」
コルチェの瞳がそっとリリスの姿を映した。
「…その、さすがに男物の服は貸せませんしね」
「でも、…お金とかないわ」
小さな溜息がリリスの口から漏れる。
「あ!それは気にしないで下さい」
「…そうそう。全然気にする事ないぜ?」
コルチェの言葉に続くようにルシフェルが言い切った。
いつの間にか部屋の扉の前に立っている。
「…本当にいいの?」
二人を交互に見つめながら、リリスは確認するようにそう言った。
「えぇ」
「もちろん」
双子たちの反応はほぼ同時に返される。
二人の笑顔に圧倒されながら、リリスは大きく瞬きをした。
「…ありがとう」

その時から彼女の胸の中に小さく花開くものがあることを本人さえも気づいていなかった…。


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